二階堂黎人『吸血の家』

「二階堂蘭子シリーズ」の二作目「吸血の家」を読んでの感想等。

ネタバレ有無両対応です。

作品紹介

かつて遊郭を営んでいた「久月」で暮らす美しい三姉妹たち。

彼女らの間には、悲劇の内に惨死したという「血吸い姫」の怨念が語り継がれていた。

謎の人物からそこで殺人が起こると予告を受けた蘭子、そしてそれは二十四年前の怪事件と関係があるのだという。

「久月」を訪れた蘭子たちの前で起こる不可解な惨劇。

繰り返される悲劇は「血吸い姫」による呪いか ー

不気味さと狂気がドロドロと渦巻く作品です。

感想

雰囲気と舞台設定が非常に魅力的

本書の舞台である久月では「呪い」「美女」(しかも複数!)という、個人的にほぼ無条件にミステリーを盛り上げてくれる要素が両立しています。

なので、人間関係や舞台背景などをあれこれ思案するだけでも結構たのしかったですし、物語を読み進めるのが苦にならず面白い。

おそらく今作の大きな見所であるのが過去の「足跡なき殺人」の謎、個人的には難解とは感じませんでしたがかなり面白いと思います。一読の価値ありかも

不満点としては、現状探偵役としての蘭子をあまり好きになれないというのが正直なところ、もう少し人間としての描写であったり推理の過程などが見られると移入しやすいのだけど。

また、前作でも思ったことですが、作中で他作品を取り上げることが多く、しかも今回は若干のネタバレになりかねないような記述もあったりしてさすがに良くないと思いました。既読者なら楽しい要素なんでしょうけどね。(カーの「テニスコートの謎」を読んでない方は注意です)

総じて良水準で見どころのある作品だったと思います。

Q: どこまでが「出題編」?

A:第十八~十九章までと思います(個人的な感覚です)


以下はネタバレを含む内容になります。未読の者の足跡はここまでで途切れていた

開く

トリックよりも大筋の見極め

本作で解き明かす三つのトリック、まず過去の「足跡なき殺人」については閃きの要素が大きい。ただし、犯人が先に分かってしまえば方法に至ることは割と容易というものになっている。

次に瀧川の密室、こういう状況は2択で、「密室じゃなくする」か「密室になる前か密室でなくなった後に済ませる」である。瀧川の存在確認を追っていけば死亡時刻の偽装の余地に気付くのは自然。絃子が夜食を運ぶ際の会話から絃子・笛子が犯人か、あるいはその正体を知り匿っていることまで想像できる。

今回一番悩まされたのが、大権寺のテニスコートの殺人。過去のトリックを当てはめようとすると「大権寺が犯人を背負っていく→殺害→犯人は支柱から伸ばしたワイヤーを使って脱出→麻田老人が後始末をする(弓矢を用いて?)」といった推理が思い立ったが、足跡の挙動がおかしいし、そもそも小さな子供がいないので甘く見ても巫女たちまで疑惑の対象になってしまう。真相は化学要素を取り入れたものであったが、正直足跡の残り方が都合が良すぎるし、偽装の方法があるかなどは警察が保証するべき事柄だと思うのだが・・・。ただ、使用した物質もきちんと登場させていたしアンフェアであるとは思わない。

以上を踏まえて、犯人の正体と犯行の動機、周囲の人間の心情等を推察していくことが本作品の山場ではないでしょうか。明らかになった真相は想像以上に「吐き気を催す邪悪」な意思であり、後味の悪い結末でありましたね。

徒然

先述の不満点の補足でもありますが、やはり他作品への言及と付随する注釈が多すぎる。問題なのは、それが劇中でのTipsと混在して列挙されていることであり、事件の手がかりが含まれていることでしょう。このせいで注釈は読まないという選択肢が取りにくくなってしまいます。作者はかなりのミステリー好きと見受けられるのに、読者への心遣いが足りないのではと思いました。

また、事件の手がかりはしっかりと読者に提示するという姿勢は非常に好みなのですが、「~で説明していました」とかわざわざ後から述べ直したりするのは無粋というか、しょーもないし、いらないですね。

他にも、私には蘭子が「デウス・エクス・マキナ」のような存在に思え、探偵としてのキャラクターが全く感じられません。登場人物のなかで彼女だけ図抜けて賢すぎるし、「なんでそこまでわかるの?」と思えるような場面もある。それなのに、殺人を止めるための措置を怠り、その結果を嘆き、前作と同様に自身と黎人もの命を危険にさらす行動には疑問しか感じません。行動理念が不明・・・

本作は作者が最初に書き上げた作品だと述べていました。それを考えると本書の力の入り方はすごいですし、よくできていると感嘆します。また、蘭子の探偵像が不明確であることの理由でもあるのかもしれません。

おそらく次巻を読めば、作者と蘭子の性格が大分見えてくるのではないかと思います、とても楽しみで期待したいです。

  

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