綾辻行人『暗黒館の殺人』

「館シリーズ」七作目、「暗黒館の殺人」の感想等。

ネタバレ有無両対応です。

シリーズのその他の作品についてはコチラ

蒼白い霧に峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。

忌まわしき影に包まれた浦登家の人々が住まう「暗黒館」。

当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。

十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴…。

作品紹介

人里離れた土地にある湖、その小島に建つのは漆黒の館「暗黒館」。

そこでは闇に仕える一族・浦登家の人間たちが暮らしていた。

暗黒館に招かれた青年・中也が出逢う奇怪な人々と謎に満ちた出来事。

招かれざる来訪者も交え、物語は動き出す。

一族に隠された秘密とは

深淵のに身を沈めるような、悪意を孕んだ大作です。

感想

ひたすらに綾辻ワールドに浸る

なんといっても量が多い、圧倒的な四冊構成。

シリーズファンにとっては、これだけで価値があるかもしれません。

率直に云えば、ミステリー作品として読むものではないかも。

今作の舞台は登場人物含め、シリーズでも最高峰に琴線を刺激してくれる世界観でした。

ただ物語を読んでいるだけで幸福で、「このままずっと読んでいたい」という気持ちが終わりが近付くにつれて大きくなります。

謎解きとしては弱い印象を受けますが、常に「驚き」を用意してくれているのが綾辻氏。

真実が明らかになった時の脳内麻薬の強さはシリーズ屈指ではないでしょうか。

ただ、メチャクチャ人を選ぶ作品だとは思います。

個人的にも決して手放しで讃えるようなものではありませんでした。

少なくとも、本作までのシリーズ作品を全部終えてからこの作品は読むべきでしょう。

次巻も祝福があらんことを・・・

Q: どこまでが「出題編」?

A:第二十五章までと思います(個人的な感覚です)


以下はネタバレを含む内容になります。未読の方は部屋を真っ黒にして目を閉じてご覧ください。

開く

暗黒の先の光明

今作の最大の魅力であり、敵であるのがその圧倒的な分量です。読者はその先に最高の快楽があると、きっと作者が用意してくれているはずだと期待して読み進めます。広大すぎる闇の果てに見出したモノがその苦労に見合うものであったのか、この一点が本書の是非を分けるのだと思います。私に関しては正直なんともいえません、最大最後の種明かしを受けたときのカタルシスは間違いなくシリーズ最高レベルでした。しかし、それ以外の部分については期待外れ感が否めない。おそらく本書は世界観の演出が最大の目的で、謎解きもその装飾の一つに過ぎないのではないかという印象を受けます。

推理の惑い

本作では何を推理するべきかがわからないという状態に陥った。密室でもアリバイでもなく、唯一それっぽい玄遥殺しについても過去の伝聞である。”現在”での殺人は最終的に「抜け穴の問題」に帰着したが、用いるべき思考の柱を作内で提示しておくこの手法は迷路館の「首切りの論理」に近しいものである。問題は我々がそれに基くかの選択であるが。

過去の玄遥殺しで疑ったのは玄児の証言自体の真偽である。記憶の喪失から過去と現在で別人である可能性は考えていたので、嘘の証言をした・あるいはさせられた子供がいたという想像である。

結局誰が犯人でも問題ないような気がして殺人の謎解きは置いてしまった。

もう一つ、暗黒館の”現在”が1991年ではないという構成は丁寧すぎる示唆から考慮した。最初の違和感は登場人物一覧に年齢が記載されていないこと。物語が進むにつれて親切にもあちらから提示してくる”違和感”の欠片、遡って確認しようにも該当部を探すだけで一苦労する。時間が違うとするならば江南らしき人物の説明が求められるが、これはあまりにも奇跡的すぎる偶然が必要となるだろう。

おまけに”視点”とかいうメタ存在のようなモノ。こういった趣向はこれまでに見なかったので、まさかの三人同一人物説も過ったがさすがにこれはナンセンス。

もはや何から手を付けるべきかもわからず結末に身を委ねるしかない。

悪意

本作で私が最も嫌ったのは、読者を騙すためだけの視点の推移と、それを成立させるためのご都合主義といえる偶然の数々です。明らかに登場人物と読者では見ている事件が別物になりますし、推理の前提も違ってきます。しかも、この技巧の産物が殺人の謎解き部分にまで深く押し入ってくる。

本格と幻想の融合が今作の大きなテーマであると、これまでのシリーズでも程度の差こそあれ、それは感じていたのですが、今回はあまりに幻想に傾きすぎているというのが正直なところです。オカルティックな物語を彩るミステリー要素といったところでしょうか。私の好みは真逆ですし、せめて推理部分だけは区別をしてくれていたらなとおもいます。

徒然

  • そろそろ島田さんの活躍も見たいなぁ
  • 許嫁想いの中也青年、先のことを知っていると結構辛い・・・
  • 藤沼一成の力、この人マジで何者なんです
  • 中也君が駄目なら私が姉妹を嫁にもらうけどいいよね
  • 中途半端に現在の状況を知らされると、気になって仕方ないよ

印象深いのは美鳥と美魚の姉妹でした。「リトルバスターズ!」というゲームで同じ名前のキャラクターが出てくるのですが、明らかに本作をモチーフにしていますね。そんな理由や設定も含めすごく情の移った登場人物となりました。また、文庫版の特別寄稿を手掛けた人物には、奈須きのこ氏や宝野アリカ氏がいてどちらも綾辻氏の大ファンとのこと、意外な驚きと少し喜びも感じてしまいます。

割と批判的なことを書いてきましたが、魅力もたくさんあります。”過去”の事件の鏡を用いた解決は鮮やかでグレイトだと思いましたし。いわずもがな、最後に大きく驚かせてくれた衝撃の事実、そしてひたすらに凝った暗黒館という世界の雰囲気。オールスター集結といえるシリーズファンなら堪らないサービスの数々。これだけで満足してしまう人もきっと多いでしょう。

単純に読み物として楽しむべきだったのかもしれません。

きっとこれは暗黒館の”物語”。

  

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