綾辻行人『黒猫館の殺人』

「館シリーズ」六作目、「黒猫館の殺人」の感想です。

ネタバレ有無両対応です。

シリーズのその他の作品についてはコチラ

大いなる謎を秘めた館、黒猫館。

火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬(あゆたとうま)の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実(ししやかどみ)と江南孝明(かわみなみたかあき)は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。

深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!? 

作品紹介

火災事件により記憶を失った老人・鮎田冬馬からの依頼を受けた鹿谷と江南。

彼が唯一持っていた手記には、かつて「黒猫館」で起きた事件について記されていた。

失くした記憶を求めて彼らは調査を開始する。

明らかになる過去、黒猫館に隠された真実とは・・・

作者の技巧が光る深霧の一冊です。

感想

冴えわたる職人の妙技

前作の衝撃が強すぎたせいか、「派手さに欠けるなぁ」なんて思いながら読み進めた本書。

氏が「楽しませること」を忘れるはずもありませんでした。

率直な感想が「美しい」の一言。

激しく興奮させた前作とは対称に、じわじわ心に響いてくるようなそんな感じです。

至る所に散りばめられた伏線と意思を持った作品の構造にただ感嘆するのみ。

これから読む人には是非じっくり、味わって読んでほしい。

読み返してもっと面白い、鮮やかな作品でした。

次巻は・・・オイオイ多い。

Q: どこまでが「出題編」?

A:第七章までと思います(個人的な感覚です)


以下はネタバレを含む内容になります。未読の人たちはさいわいである、初読の感動は彼らのものである。

開く

推理の遊ばせ方

最初の引っかかりはプロローグ、描写される館の特徴を舐めながら平面図と表紙(新装版)のイラストでイメージを膨らませる。が、「風見猫」の位置がどうもイラストと合わない。この時点で妄想する、黒猫館と対になる白猫館(仮)が存在して、もしかするとそれがそのままトリックになっている、みたいなストーリー。そういった疑いを持ったまま読み始めたが、表紙イラスト無しだったら気づけなかったかもしれない。

鮎田冬馬の正体については割とすぐ疑問に思う点だろう、明らかになる天羽の年齢から同一人物説を立てるのは自然。内臓逆位の人間は左利きが多いみたいな事実はないか、とか調べたりしたがもっと明快な伏線がいくつもあったようだ。また、本当に記憶を失っているかも随分疑って、わざと知人に会うことを避けている可能性も考えた。

麻生の密室が大きな焦点、正直これは自殺が自然な気がしていたが、一応氷を用いるトリックの発想には至る、他にも猫を使ってできないかとか。ただし、犯人や動機は特定できなかったので鮎田=天羽の過去に関わる事情により殺されたのか?みたいな想像をしつつ、最終的には自殺を推していた。

そして、最大の見せ場であった黒猫館はどこにあるか?という疑問。鹿谷らがたどり着いたのが黒猫館でないことはほぼ確信していたが、本物がどこかについては正直あまり気にしていなかった。もしかすると「黒猫館」は存在せず、手記は鮎田による推理小説作品だった、みたいなオチも考えたりしていた。これが推理すべき点であることに気づけなかったことが残念でならない。驚かされて楽しむのも好きだが、やはりそれも熟考の果てに迎えたいものである。

秀逸な点

本書の勝負所は黒猫館はどこにあるか?という謎の存在に気付くこと、そしてその答えを見つけ出すこと、この二つだと思います。感心したのは、この答がわからなければ最後の密室の解決には至れないという設定の上手さです。

氷というアイデアは出しても、さらっと述べられていた「館内では氷は得られないという状況」(私はすっかり忘れていました)を見落とさず、その上で黒猫館を見つけ出した者だけが雪を利用し、犯人の特定に至ることができるわけです。

作者は「八十パーセントは見抜けるかもしれないが、問題は残りの二十パーセントにこそありますぞ」とあとがきで述べていました。まさにその通り、わたしからすればここが100点と0点の境目。今回もしてやられた・・・。

作中に光る様々な伏線も素晴らしいですが、この構造こそが最も心打たれた部分であります。

疑問点など

気になった点やツッコミなど

  • あれだけ「完全な密室」感を出しまくっておいて、正解は氷トリックでした、はしょーもないような・・・
  • 麻生の遺書の筆跡を「似せて書いた」で済ませていいのか、あれが無ければもっと他殺の場合の推理も深めていたはず
  • 殺人の動機がどちらも響いてこないし、レナの死もタイミングが酷い
  • 意図せずしてここまで読者を欺ける内容の手記になるものだろうか

これらの点も踏まえ、事件とトリックだけを見れば陳腐で味のない作品と感じるかもしれません。ただ、先も述べた通りこの作品の主眼は別の部分にあり、作者の意図に気付いたうえで読まなければその魅力に気づくことはできません。そんなことわかったうえで、つまらないと感じる人もいるでしょう、謎は提示されるものだと考える読者もいるはずです。

私は読み終えた直後はそこまで感じませんでしたが、時間が経つほどよくできた作品だなと思うようになりました。欲を言えば、もっと事件部分を練りこんでさらに自然な形で”仕掛け”を魅せれたら最高だったかなといったところ。

やはり、氏は読者を飽きさせない、本当に色々やって私たちを楽しませてくれるなと改めて感じました。

そういえば、新装版の表紙には今のところ全てにドクロが隠されているのですね、六作目まで読んでようやく気付きました(恥)。

次巻は超大作のようなので気合い入れていきたいです。

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