綾辻行人『迷路館の殺人』

「館シリーズ」の三作目「迷路館の殺人」を読んでの感想。

ネタバレ有無両対応とします。

シリーズのその他の作品についてはコチラ

奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。

招かれた4人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった!

作品紹介

日本推理小説界の老大家、宮垣葉太郎。

彼の居城「迷路館」に招かれたのは友人らと四人の”弟子”たち。

予期せずして始まったのは莫大な賞金を懸けた推理小説の競作であった。

閉ざされた「迷路館」で、そこを舞台にした推理小説を書くという奇特な状況。

それすらも不可解で凄惨な連続殺人の幕開けにすぎなかった・・・。

作中作の様式を用いた奔放な作品となっています。

感想

十角館の血を引くやんちゃ坊主

今作の大きな特徴の一つはやはり作中作の形式をもつことでしょう。

これが有効に使われていて、一読で2冊分楽しめるようなお得?な内容となっています。

そして多くの読者を「はぁ~~!?」と言わせてくれるであろう”仕掛け”。

この衝撃は一作目「十角館の殺人」を彷彿とさせるものでした。

自分もすっかり騙されてしまいましたね、全く予想しない方向から殴られたような気分。

それはこの作品の評価を大きく分ける部分かもしれません。

舞台となる「迷路館」はギリシャ神話を題材とした建物になっており、それが生み出す神秘的な雰囲気と迷宮としての不気味さが肌に刺さります。

良くも悪くも、作者の(作家としての)若々しさが感じられる作品でした。

急いで次巻へ Read it go!

Q: どこまでが「出題編」?

A:今作は一ヶ所に定めるのが難しいですが、最短で第八章までとし、以降は適宜立ち止まってみるのがいいかも(個人的な感覚です)


以下はネタバレを含む内容になります。君未読であることなかれ。

開く

渇望していた館

 本書のタイトルを見た瞬間「やっと来たか!」と思いました。

なんたって”迷路”館ですよ、これまでの舞台になった館は、それ自体がトリックの一端となるようなことがありませんでした。私としては「館シリーズ」なのだから、是非その館だからこそできるような仕掛けを見たい!という願望が常にあったのです。

前二作では難しかったかもしれない、でも迷路館なら期待できるのではないかと。作中で見取り図が示されたときにはワクワクしながら構造を観察したりしました。そして期待通りの展開があったのでそれだけでも幸せでしたね。

そして舞台設定、”莫大な遺産の相続”と”それをかけての競争”、どちらも最高の一言。この人は私の好みを毎度的確に突いてくるなあ。

推理の道筋

第一の殺人、須崎の死はこの段階では正直お手上げで、誰が犯人でもおかしくないという状況だったのだが、島田による「首切りの論理」、これは正直全く考えに至らなかった。というか、第一の作品との相違にすら気付かなかった。

これに関しては飛躍した想像ではないかとの印象もあったが、少なくとも首切りの行為に何らかの意味があるという前提で読み進めた(意味がなければこんな話はしないだろうというメタな思考による)。

第二から第四の殺人までは一気で、推理する暇も与えてくれない。が、第二の殺人、清村殺しについてはすぐに方法には至れた。前述の通り、私はゴール前でずっとパスがくるのを待っていたようなものだし、伏線もくどいほど提示されていたのだから当然ではあった。問題はフーダニットで、その瞬間はむしろ残りの作家たちの方を疑っていたのだがすぐに否定されることになる。

林の死ではワープロ上の文字が焦点となるが、これも親指シフトの話を覚えていれば瞬殺、意味するのがおそらく「かがみ」であることはわかり、鏡についての話題もあったが意味はわからないままにまた事件。

舟岡の死に関しては、もはや二重の密室といってもいいほどの状況で、しかも疑っていた作家が全員死んだとなるとこいつは困る。勝手に一日一殺を想像していたのに急展開が過ぎた。

 ここが分岐点、もう少しここで粘ってもよかったかもしれない。舟岡の部屋の密室と鏡というワード、これらを合わせれば隠し通路の発見に至れた可能性はある。一つ弁解と抗議をするならば、勿論隠し通路の存在自体は常に疑っていた。ただし、もしその存在を裏付けることができたとしても、それがどの程度のものなのか、つまりどことどこまでを繋いでいるのかがわからなければ犯人の特定には至らないはずである。結局読み進めなければいけないのではという不本意な仕方なしの選択だったのである。

そして展開は一気に真相へと向かう。隠し通路の存在は示された、ここでいったん立ち止まる。犯人は鮫島か桂子のどちらかのはずだ。フミヱは除外して問題ないだろうし、宇多山は主観の描写と島田と一緒の時間が多すぎる。どちらだろうか。

ここで首切りの論理を再考した、これぐらいしか手がかりがないのだ。それまでは自然と容疑者から遠ざかっていた桂子だったが、ここまで絞られたことでようやく一つの結論に至った。

犯人が隠したかった血とは吐血によるものであったのだ!なぜこれにすぐ至らなかったのか、誰も至らなかったのか。妊娠による吐血の体験談もあるようだ。なぜ須崎の死体は中途半端に切断されていたのか、それはその時点で桂子がかなり弱っていて工作をやりきることすらもできなかったからだ。どうだいこの推理?

・・・良い線いってるとその時は本気で信じていたのだけど、思い返せばさすがに林や舟岡殺しを一気に実行するのは、桂子の体では現実的じゃなかっただろう。それにも気づけないほどに窮し曇っていた。

結局最後の”種明かし”までその姿勢は崩れずに完全に騙されてしまったのである。

二つの結末

本書には二つの物語が存在する。すなわち綾辻行人による「迷路館の殺人」と、鹿谷門美による<迷路館の殺人>である。そして、後者の方は鹿谷門美から真犯人へ向けてのメッセージという位置づけになる。

読者からすると<迷路館の殺人>の結末の方がスッキリする、後談は蛇足だと感じる場合も多いだろう。それは当然で、鹿谷自身が言っている、「真犯人のみにとってメッセージとなりうる」ように書いたと。

我々読者は<迷路館の殺人>を一つの作品として楽しみ、「迷路館の殺人」に驚かされる、それが障りのない読み方なのだろうか。もちろん、これは綾辻作品なのだから、順当すぎる結末に反抗し、最後まで抗い続けた探偵たちがいたはずだ。彼らはきっと現実事件としての「迷路館の殺人」を解きたかったのだ。しかし、彼らが目指した場所へは確証の無い想像の世界を通らなければ辿り着けなかった(と思う)。そのとき彼らは報われない気持ちを抱いたかもしれない。

アンフェアなのは何処か?

作中で鹿谷ら自身がフェア・アンフェア論争を行っていたことから、作者自身もそれを強く意識していたであろうことは伺える。個人的に小言を言ってやりたい部分を挙げるならば、それは鮫島に関するフェイクではない、鹿谷門美の正体についての技巧である。鹿谷門美は誰なのかというのはこの作品を読むうえでとても楽しみにしていた部分であったし、事件の推理にも少なからず影響を与えるファクターであった。それを初っ端から未登場の人物まで用いて、いうなれば騙すためだけの描写を取り入れたことには嫌悪感も感じた(同時に快感も与えてくれるから困ったものだが)。本書の発表が四月一日であったならば全て笑って許してしまっていたかもしれない。

その他

細かい疑問点などを挙げていくと、

  • 首切りの論理について、島田も指摘していたわざわざ「中途半端に」首を切っていた理由への回答にはならないのではないか
  • なぜ誰も作品の著者が犯人自身だという思考に至らないのか
  • 集まっている人間の割に切れているのが鮫島(当たり前だが)くらいしかいないではないか
  • 真犯人の犯行であるならば被害者たちがあまりにもかわいそうすぎる
  • 本当に宮垣の狂言で、全員を騙せていたのか

真犯人の動機にインパクトがなかったり、逆に作中作の結末は描写も極まっていて、(個人的には)動機にも深く共感できることから、いらぬ児戯を加えているという考えも大いに理解できます。

真のミノス王の部屋への入り口とその道筋についてはお見事といいたい。迷路として明らかに不自然な空間であったのでトリックに使われるかと思っていましたが、そうきたかという感じです。綴りによる伏線やアリアドネの糸玉との結びつけは軽く感動でした、できれば自分で気づきたかったけど。

フェイクの種を知ってから振り返ってみると細やかな発見があって楽しい、例えば梯子を降りるときの順番とか。これはこの手の作品の醍醐味の一つといえるでしょう。

少し意外だったのは島田が一度は完全にミスリードに乗せられてしまったということ。彼が突然に事件の全貌(偽)を把握しだしたことにも驚きましたが、やはり未だに彼の探偵像が見えてきませんね。

最後にわがままを言えば、第二の殺人以降の展開が速すぎてもっとじっくり作品を味わいたかったということ。一晩一殺ぐらいがやはり読んでいて最も昂る展開だと思います。もちろんそれは本作品の趣向と反する部分が大きいのでしょうが。

水車館で少し落ち着いた面を見せたと思ったらまたすぐに牙をむいてきた館シリーズ三作目。作中でも誰かが言っていたけど、これこそが氏の「過剰なもの」を最も表現できる領域なのかもしれません。

スポンサーリンク
google adsense



google adsense



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
google adsense